相模原商工会議所会報11月号に掲載されました

相模原商工会議所会報11月号の「健康特集」にて掲載されました。

「人の気持ちは力を生み出す」【後編】

~人間の「成長欲求」について~

一般社団法人 産業精神保健機構 代表理事
公認心理師 精神保健福祉士
松岡 康彦

皆さまこんにちは。木枯らしとともに紅葉前線が南下し、山々が絵画のキャンパスのように色鮮やかに染めています。その美しさに気分もよくなり、木々が醸し出す彩色の濃淡にワクワクするような気持ちが湧いてきます。
 
本連載では「人の気持ちは力を生み出す」のテーマで書いていますが、自然環境を見るだけでも、このように気分がよくなるのです。社会環境も大切な要素になります。そこで、今月は自分の置かれた環境から達成感がどのように生まれるかについてお話します。

米国の心理学者アブラハム・マズローは「自己実現理論」で人間の欲求を「5 段階」で理論化し、自己達成感について述べています。この理論の根底にあるのは「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」という仮説に基づきます。マズローは欲求について①生理的欲求 ②安全の欲求 ③所属と愛の欲求 ④承認の欲求 ⑤自己実現の欲求といった計5 段階に分けています。欲求は「抑えるより引き出して満たすことで、さらに健康になり、より活動的になり、より幸福になる」という考え方です。

第1段階は「生理的欲求」です。これは動物とも共通する生きるための欲求です。水、食事、睡眠、性欲。これらの欲求がないと生命維持ができません。
 
第2は「安全欲求」です。第1の生きるための物が満たされたら、今度は安全に生きるための欲求です。ライオンのいる森林では安全に生きられません。現代でも、夜に何も見えない治安の悪い中では安全な睡眠が取れません。ですから「安全な、よい住居環境」が必要になり、欲求となるのです。

第3は「所属と愛の欲求」です。生理的欲求と安全欲求が満たされると、家族、会社、学校、クラブ、自治会などの一員になりたい。所属して迎えられ愛情を受けたいという欲求です。
 
第4は「承認の欲求」です。自尊心が満たされて、優越感が得られて、他者から評価されることで満足するということです。この欲求が満たされないと無力感、脱力感、焦燥感が生まれます。マズローはここまでを「欠乏欲求」と名付けました。達成感としてはまだ低い段階です。

大事なのは、第5の「自己実現の欲求」です。自分の力を生み出し、心底から発揮することにより、思ったことを実現していくことで得られるものが「自己達成感」です。人間性の根源から得られる達成する気持ちです。

かつてマラソンの有森裕子選手が「自分を自分で褒めたいと思います」との言ったことは有名ですが、まさに第5 の自己実現欲求が満たされた言葉です。マズローはこの第5 段階を「成長欲求」と位置づけました。他人からの評価や優越感から得られたものでなく、自ら心から湧いてくる力から得た達成感こそ「本物の達成感」と言う訳です。

秋深まる中、皆さんもマズローの第5段階「自己達成感」を得るにはどうしたらできるかを、哀愁に浸りながら考えてみてください。きっとワクワク楽しい気分になります。