第25回多文化間精神医学会学術総会で発表をいたしました

第25回多文化間精神医学会学術総会
【日時】 2018年11月10日(土)9:00~10:00
【場所】 ホテル日航成田
【発表者】 松岡康彦・いとうたけひこ

「海外駐在員のメンタルヘルスマネジメント ベトナムの職場文化・風土における実態と改善」

※ 以下画像をクリックすると発表内容(PDF)が開きます。

海外駐在員のメンタルヘルスマネジメント
ベトナムにおける職場文化・風土における実態と改善
現地企業の支援活動によるアクションリサーチ

松岡康彦 和光大学大学院
いとうたけひこ 和光大学

キーワード: 海外駐在員、ベトナム・ハノイ、メンタルヘルスマネジメント

問題

ハノイの長期滞在者は5559人、(男性3997人、女性1562人)であり、うち民間企業関係者は3150人(男性2984人、女性166人)である(外務省, 2015)。この人数に対してメンタルヘルスヘルスの専門家は少なく精神科医はゼロであり、支援態勢が十分ではない。第1著者は2018年3月より現地医療機関と連携して、メンタルヘルスマネジメントの向上のため介入をおこなってきた。具体的には、(1)日本人向け情報誌での13ページのストレス特集記事の作成と配布、(2)日本人学校教員、各大企業メンタルヘルス責任者、ハノイ日本商工会議所を対象にした講演会、(3)大企業の責任者の面談によるニーズサーベイ、などである。今後の支援のためには、更に具体的に直接駐在員からの実際の思いを傾聴・記述する必要がある。

目的

本研究の目的は、ハノイの日本人駐在員の直面する困難を明らかすることである。

方法

ハノイにおいて半構造化面接を日本人駐在員男性4人に対しておこなった。

結果

事例1は、60代男性、前職は大企業製造業ベトナム社長で、現在中小企業副社長である。働きすぎの自覚症状なしで過労で倒れ2年間思うように心身が動かなかったが健康をとり戻す。慢性疲労症候群とみられた。事例2は、40代男性、大企業中間管理職、仕事の半分は出張、帰宅は寝に帰るだけで。ある日無自覚に涙が流れ、精神的に参っていると気づき医師と話してすっきりしたあとは、自分で全てを抱えないようにしたとのこと。家族がハノイにいるのが癒しになっている。事例3は、30代大企業中間管理職、赴任当初は仕事をしてても、してない時もストレスだらけであった。ベトナム人スタッフたちとの文化の違いや日本よりも増えた業務量に悩む。家族一緒にいることにより、幼い子供を育てる環境の不安や心配だったが、3年たった今は生活に慣れて帰国したいとは思わない。事例4は、40代男性、前職ゲームソフト技術者、現在は日本人向けベトナム情報誌記者で、前職場はうつ病発生率が非常に高かったので、自分もなるのでないかと不安になり退社した。

考察

ハノイ駐在員の特徴として以下のことが明らかになった。ベトナム人との文化の違いと日本の時より仕事量がふえたことによるストレスが見られても、そのことに自覚がない場合がある。ベトナムという異文化を吸収できる人とできない人がいることが明らかになった。具体的なストレスとして、文化・風習面での時間や約束の価値観の違い、環境・天候面での、24時間バイクの騒音、野犬が野放し、大気汚染や高温多湿で外出をためらうことにより運動不足、対人面での狭い日本人コミュニティからの圧迫感、などが見られた。家族関係の重要性も明らかになった。ベトナム駐在員のメンタルヘルスは、個人・家族の個別性と、ハノイ・ベトナム固有の特殊性と、日本人労働者の持つ一般性の3つの観点が必要である。