相模原商工会会議所会報9月号に掲載されました

相模原商工会会議所広報9月号

人の気持ちと行動パターン【前編】

皆さまこんにちは。暑い夏もやっと終わり、爽やかな秋風にほっとしているころだと思います。2017年と18年の9 月10月号では「よい職場環境」についての話をしました。今回は心理学をベースとした「人の気持ちと行動パターン」についての話をしたいと思います。

さて、このテーマに関しては、商売・感情・労働・安全・恋愛といった五つの面を織りまぜながら説明していきます。まず商売からです。ご存知の通り、商売の基本は「売ること」と「買うこと」です。少し掘り下げていきます。その中でどんな売る方法があるか? です。
 
「ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的要請法)」は、社会心理学ベースの営業活動です。例えば、最初に何とかやってもらえそうな大きめの事を頼んだ後、それはやめて、適当に受け入れてもらえそうな新しい事に変えることで、受諾してもらうことです。分かりやすく説明します。例えば、カップルが宝石売り場で婚約指輪を見ています。そこで、50万円のダイヤを見せてから、同じような大きさで30万円のものを見せると、購入が決まることです。
 
一方、「フット・イン・ザ・ドア(段階的要請法)」では、最初に小さな事を頼んでから、少しずつふくらませていくやり方です。例えば、旅行会社のカウンターで「台北旅行ツアー・2 泊3 日7 万円成田発」を提示するとします。次に、9 万円羽田発で滞在時間が12時間増えるツアーがあります。さらに、12万円だと3 泊4 日羽田発で大変お得なツアーです。こうした流れにより、購買意欲が高まります。
 
いずれにせよ、この二つは「人は自身の行動などに一貫したものを持たせたい」という心理を使った営業方法です。余談ですが「ドア・イン・ザ・フェイス」は、デートに誘うときにも使えます。「夜景の絶景地、函館山の夜景を見に行きませんか?」「日帰りは無理でしょ」「なら、静岡の日本平の夜景に行きましょう」「日帰りなら・・・」。これでデート成立です。
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次は「感情」についての心理学です。これには二つの説があります。
まず心理学者ジェームス・ランゲ説です。この説は「悲しいから泣くのではない。泣くから悲しいのである」と末梢起源説を唱えました。それに対し、キャノン・バード説は、中枢起源説で「悲しいから泣くと」唱えます。
 
そこでダットンとアロンは、吊り橋を使って、どちらが正しいのかの証明を試みました。カナダ・バンクーバーにある、かなり恐怖感がある「キャピラノ吊り橋」を渡っている真ん中で、ドキドキしている男性18人に対し、美しい女性がアンケートをとりました。女性は「アンケートの結果に興味がある場合は連絡をください」と電話番号を渡しましたら9 人から電話がありました。
 
一方、普通の橋を渡っている16人に同様のアンケートをしたら、電話があったのはたった2 人でした。つまり、前者の「橋を渡るドキドキ感」は、いわば恋愛感情に近く、電話した9 人は錯覚に陥ったと想定されます。これにより、「泣くから悲しい」というジェームス・ランゲ説に近い結果となりました。これを「生理・認知説の吊り橋実験」といいます。 (10月号に続く)